第 8 話 ゆらゆらしている言葉

ゆらゆらする aggressive

あかり
(土手で風景の絵を描きながら) ふう。つかれた。どこかでハンモックでゆらゆらして休みたいわ。
ねこさん
それじゃあ。ゆらゆらしている言葉を紹介しようか。
あかり
あ。ねこさん。ゆらゆらしている言葉?
ねこさん
ゆらゆらしている英単語には aggressive があるよ。
あかり
アグレッシブ。
ねこさん
聞いたことはあるでしょ。
あかり
「アグレッシブな人ね」みたいに言うわね。
ねこさん
そうそう。aggressive の語源 ag は「その方向に」を意味して、gress は「歩く」を意味するよ。
あかり
その方向へ歩いてくる感じなの?
ねこさん
そう。「ぐいぐい歩いてくる」感じだよ。
あかり
ぐいぐいと?
ねこさん
aggressive は「積極的な」という意味があるよ。
あかり
たしかに、「ぐいぐい歩いてくる」のは積極的な感じね。
ねこさん
いっぽうで、aggressive には「攻撃的な」という意味もあるよ。
あかり
あら。そうなの。「攻撃的な」も、「ぐいぐい歩いてくる」感じね。
ねこさん
そうでしょう。いい感じだと「積極的」で、わるい感じだと「攻撃的」だよね。
あかり
いい感じと、わるい感じがゆらゆらしているってこと?
ねこさん
そういうこと。aggressive は「ぐいぐい歩いてくる」感じが、ゆらゆらしているね。
あかり
そういうことね。
ねこさん
ちなみに英単語 progress にも語源 gress が入っているよ。
あかり
プログレスはなんか聞いたことがあるわ。
ねこさん
progress の語源 pro は「前に」、語源 gress は「歩く」だよ。
あかり
「前に歩く」なのね。
ねこさん
そう。progress の意味は「前進する、進歩する」だよ。
あかり
なるほどね。
ねこさん
さらに言うと英単語 congress にも語源 gress が入っているよ。
あかり
コングレス?
ねこさん
congress は「会議」を意味するよ。
あかり
ふむふむ。
ねこさん
con は語源 com のことで、「一緒に」を意味するよ。
あかり
じゃあ「一緒に歩く」ってこと?
ねこさん
そうだね。「会議」は、「参加者が一緒に歩いて向かう場」というわけだ。
あかり
ほうほう。

ゆらゆらする host

ねこさん
ふたつめのゆらゆらを紹介しよう。hostile という英単語があるんだ。
あかり
ホスタイル?
ねこさん
「敵意のある」を意味する英単語なんだ。
あかり
ふむ。
ねこさん
もうひとつ、host という英単語は「客をもてなす人」である、パーティーや宿屋の「主人」を意味するんだ。
あかり
ホスト。
ねこさん
hostile と host の共通している部分はどこだかわかる?
あかり
つづりの host が同じね。
ねこさん
そのとおり。このふたつの英単語は同じ語源なんだ。
あかり
そうなの? 同じ語源なのに、hostile は「敵意のある」で、host は「客をもてなす人」なのね。
ねこさん
「敵」と「客」はまるで正反対の意味だよね。
あかり
どうしてそんなことになったのかしら。
ねこさん
語源 host の意味がわかると納得できるかもね。
あかり
そうなの。
ねこさん
語源 host は「見知らぬ人」を意味するんだ。
あかり
見知らぬ人?
ねこさん
そう。はじめて会う「見知らぬ人」は、敵なのかお客さんなのかはわからないよね。
あかり
ああ。それでそんなふうに意味が分かれたのね。
ねこさん
そう考えられるよ。
あかり
ふうん。
ねこさん
「ホテル」を意味する英単語 hotel も、語源は host なんだ。
あかり
「ホテル」が迎えるのは「お客さん」ね。
ねこさん
そうだね。いっぽうで、「敵意」を意味する hostility も、語源は host だ。
あかり
ホスティリティーは「敵意」なのね。
ねこさん
そう。そんなふうに「敵」と「客」かゆらゆらゆれている。それが語源 host なんだ。
あかり
aggressive とはまた違ったゆらゆらね。

ゆらゆらする subject

ねこさん
みっつめのゆらゆらゆらは、英単語の subject だよ。
あかり
サブジェクト。
ねこさん
subject の sub は「下に」を意味し、ject は「投げる」を意味するよ。
あかり
「下に投げる」ということね。
ねこさん
そう。そこから「下の立場に投げられた人」のように考えられるよ。
あかり
ふむふむ。
ねこさん
「下の立場に投げられた人」は、上の立場の人に「従う」よね。
あかり
そうね。
ねこさん
そんなわけで subject には「従う」感じがあるんだ。
あかり
従う。
ねこさん
subject には「支配を受ける」という意味や、「臣下 (しんか)」という意味があるよ。
あかり
臣下はどういうものなの?
ねこさん
臣下は「君主に従う家来」のことだよ。
あかり
ふうん。「支配を受ける」ことも「臣下」も、「従っている」わね。
ねこさん
そうなんだ。いっぽうで、subject には「従える」感じもあるんだ。
あかり
従える? さっきと逆の印象になったわね。
ねこさん
subject には「服従させる」という意味があるよ。
あかり
ふむふむ。「服従させる」は「従える」わけね。
ねこさん
そう。そんなふうに subject は「従う」ときもあれば「従える」ときもあるんだ。
あかり
ふうん。
ねこさん
ちなみに subjection という英単語があるよ。
あかり
サブジェクション。
ねこさん
subjection は「服従、征服」を意味するよ。これも「従う」と「従える」がゆらゆらしているね。

いろんなゆらゆら

あかり
aggressive、host、subject。いろいろなゆらゆらがあるのね。
ねこさん
そうなんだ。
あかり
そんなふうに英単語を見たことなかったわ。
ねこさん
ややこしいところかもしれないし、おもしろいところかもしれないね。
あかり
そんなゆらゆらする波に乗れたらたのしそうね。

みちくさ

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